両演奏会の概要と雑感をつづる「紀行録編」ぶっちゃけワレワレの遠征動機「画面左側編」と続き、これらの本文中にはなぜかFF14と混ぜてしまったトンチキ感想戦「タイクーン王立楽団異聞」の欠片が差し込まれています。
今回の遠征でタイクーンオケに参戦するFF5フレンズと旧交を温める機会があり、色紙イラストをいただいたのでアイキャッチに採用しました。ひえんさんありがとう~~。
8番出口を目指す?エクスデス(あれ?異変なのでは???もしくは、このまま8番出口への通路にいた方が……)。異変を見つけたら引き返すのが「8番出口」、異変に気がついたら「行かなくちゃ!」なのがFF5ですよね。
あと、いっしょに推し色マカロンもいただいて帰還後ティータイムで美味しく食べたんですけども、旅程の移動中に砕け散ってしまってます……w
ざっくり進行に沿って感想を書いていますが、一部前後しているところがあります。
またタイクーン吹・オケともに、上演時はアンケート用紙を取るとき以外パンフレットを開いていません。「初見の情緒」のフリーズドライをお楽しみください。
第一世界の部あれこれ
両演奏会でいちばん演奏時間を設けていたのが第一世界の部。
数奇な運命に導かれた4人が出会い、「光の戦士」としてクリスタルを守るための旅路を演奏とエモートたっぷりで辿ります。
始まりと出会い、そしてクリスタル
「FF5メインテーマ」吹・オケともに1ループ目はとろけるようなオーボエがFF5ロゴ向こうに広がる草原と、チョコボに乗って草原を駆け抜ける旅人を描き出します。
オケ版では目が覚めるようなグロッケンのアルペジオに2ループ目のコーラスが厚みを増し、吹版では2周目にトランペットが入ってきてこれまた華やか。最後は一人と一頭の旅人たちからカメラを引くようなイントロフレーズのループにプレリュード。
ここから、全てがはじまります。
演奏世界へさらに引き込まれるのが「オープニング」。吹版でフルートからメロディを受け継いだサックスが素敵だなぁ……と思っていたところでホールに響き渡る飛竜の声。ゲームで聞いてた効果音が生で出てる!曲調はだんだん不穏さを増していき、ファリスが風の異変に気がついたあたりでオケでは Chor Crystal Mana の、吹版では他奏者によるコーラスが差し込まれます。地味に吹での自前コーラスすごいな……。場面がいくらか変わり、一人と一頭の旅の朝。しかし、このときだけは様子が違いました。空から――いん石が!SEつきで!
ストーリーの序盤から重要な場面に優しく流される「レナのテーマ」。タイクーンのいん石での出会いでレナのソロに手を差し伸べるバッツに心もだえたカップリング筋のクラスターさんも続出したとか。そこにすっと入ってくるガラフとの掛け合いもよきでした。
風の神殿にて
一行は風の神殿へ。オケ版の「封印されしもの」は1コーラス最後の特徴的な音色をミュートつけた金管で演奏してたり、2周目で弦が強めに入ったりと随所に工夫が見られました。
「バトル1」はプレイ中一番よく聴く曲のひとつなので楽しみにしていましたが、実にパワフル!ベースがかっこよくて高音金管がきらびやかに映え、吹版の演奏はまさに吹奏楽の面目躍如。さらにオケ共々ピクリマ版まで取り入れられて二度美味しい!オケでは「勝利のファンファーレ」でコーラスの皆さんがあの勝利ポーズを再現。あの手を上げ下げするエモート、まとまった人数でやるとインパクトありました。
「プレリュード」でクリスタルルームに入った一行は、4つの心とクリスタルの欠片に眠るジョブを授かります。このときクリスタルは、光と音(SE再現)でも4つの心を託したことを伝えました。そして、闇に包まれ姿を消すタイクーン王も……
町のひとときと海賊たちと新たな船出
トゥールの村でのひとときを描いた「街のテーマ」「あたしは踊り子」、吹オケで少し時間軸が前後する「おれたちゃ海賊」。
「おれたちゃ海賊」オケ版では海賊のアジトで捕まり「シルドラ!あいさつしな!」と豪快なお出迎え。吹版では「おまえたちはおいていく!」なファリスがアジトで預かる「ボコのテーマ」でピッコロソロを披露します。
ここの「街のテーマ」に限らずなんですけど、酒場で踊り子さんが「フー!」したあと、またもとの「街のテーマ」に戻るのが解釈よきでした。
船の墓場、セイレーンの幻術で現れた少女――クルルのソロにコンマスガラフが首をかしげ、思い出せなかったが故に事態が打開する場面を再現した「幻惑されて」は、キャラクターを立てた演出が光ります。また、この手前で船の墓場へ流されるとき、波音が立てられていたのも印象的でした。
アッチェレランド「急げ!急げ!!」
だんだん速く、そして終わる。
https://acro-musicschool.com/blog/etc/music_dictionary/accelerando.html
クラシック音楽などで使われる「accelerando(アッチェレランド)」は、速度記号の中の1つです。イタリア語でだんだん速く、そして終わる。という意味の言葉になります。
「accel」と略して記譜されることもあります。
タイクーンのいん石で倒れているレナを助けるシーンでピクリマ版を採用し、その時点ですでにあの目まぐるしいアルペジオを演奏していたのも相当ですが、やはりこの曲の白眉は
カルナック城 爆発まで あと10分!
原曲の際限なく上げられていくテンポに演奏がついてきてる?!?!テレポのSEを聞く羽目(≒時間切れゲームオーバー)にならなくて……よかったです……
力業MIP!ステレオシンバル(物理)「火力船」
シンバルが左右にパン振られている「火力船」演奏でそれを再現するために「シンバルを2組使って舞台の左右で鳴らす」なんて力業で解決しちゃったの、大好物でございます。吹でもオケでも見られたので、それはもうにっこにこ。
オケでは2周目にコーラスががっつり参加して、人の知恵と技術で築き上げられた火力船の力強さを感じました。
ステレオシンバル(物理)、同じカテゴリにステレオ三連タム(物理)もありますが、それは稿を変えて後ほど。
スローで沈む黒チョコボ~「古代図書館」
原作テンポ再現の妙がここにも。「急げ!急げ!!」が高速の極みなら、クリスタルの欠片を飲み込んでて飛べない黒チョコボとの出会いを再現した「マンボ de チョコボ」は低速の極みでしょう。「ん?」に戻るとともに、あーそうそうこれこれ!と口元が緩みます。
FF5三大ユニークリズム隊曲の一角(諸説あります)「古代図書館」。パーカッションの腕の見せどころさんです。ピクリマ版からのメロディの掛け合いや、オケでのコーラス追加など、映える聞き所が随所に。
吹版では、ここで本にとりついたある魔物と対峙するのですが……
「レクイエム」の行方
「FF5全曲をストーリー再現しながら演奏」がコンセプトのタイクーン吹・オケにおいて、だいたいどのあたりで出てくるかが分かるひいき筋の楽曲よりも、どこでどう入れるのか気になってたのが「レクイエム」。吹では古代図書館でのレベル5デスラーニング事故、オケでは沈んだウォルスの塔のものまねしゴゴ戦で「ものまね」しそびれる、FF5あるあるシチュエーションを寸劇エモートでガチの戦闘不能までお出しされ、完全に解釈満点でした。
オケでは「おしおきメテオ」に火力ぶっぱの「バトル2」と弦楽器でのSEがついてたうえに「全滅したので休憩です」。また、演奏フラグが第三世界まで引っ張られるとは予想できず、第二世界の部が終わったあたりで『まだレクイエム聴いてないんだけど……まさかオメガかしんりゅうに挑む?!』と変な不安に駆られてました。
指揮バッツ含め光の戦士のソリスト達が倒れても、演奏は粛々と進む……そこがシュールさに輪をかけててイイところ。オケではパーティから離脱していたコンマスガラフが演奏タイミング指示を出していたらしく、それを「4人にはガラフがついているんだな」と解釈した奏者さんのコメントにエモ散らかしてたんですが、待てよ……吹での全滅事故は古代図書館=第一世界=ガラフ存命で確か全滅時のパーティにいた覚えがあるんだけど、じゃあ吹での「レクイエム」演奏の指示は誰が出してたんだ?!指揮者も、コンマスも戦闘不能だぞ?!おしえて!タイクーン吹の中の人!!!
故郷に、そして空へ
第一世界の部もクライマックス、残されたクリスタルはあとひとつ。
「はるかなる故郷」~「想い出のオルゴール」
バッツの故郷リックスの村に立ち寄り「おやすみなさい」と皆が寝静まったその夜更け――
虫の声が飛び交う宵闇に宿を抜け出すひとつの影……そして、それを追うもうひとつ。バッツが亡父ドルガンとの約束を果たしに墓参りへと赴き、ファリスと言葉を交わす、演奏会屈指の再現シーンです。
(照明だいぶ落とした状態で演奏進行するの、観てる以上に大変だったのでは……)
そんな一夜が明けて、バッツの生家に立ち寄ると主のいなくなった家には吟遊詩人が住んでおり、オルゴールが残されていました。ネジを巻いて開いてみると、かわいらしい音色とともにセピア色の想い出が温かい旋律をともなってよみがえります。
――また、わるいひとを みはりにいくの?
回想から戻るとふたたびの「はるかなる故郷」。オケではここで Dear Friends 版の歌唱が入ります!その手が!あったか!
「ムジカ・マキーナ」
「飛空艇」からのつなぎからさらに高高度へ。FF5三大ユニークリズム隊曲(諸説)のもうひとつ「ムジカ・マキーナ」、パーカッションの皆さんの創意工夫が見られるところです。個人的には、カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ……と長く続く効果音への工夫が素敵でした。吹版ではマリンバをマレットの反対側の方でなぞっていってましたし、オケ版では専用の小道具を振り回してましたね。
第二世界の部あれこれ
第二世界の部は開幕早々、ワレワレの情緒が吹き飛ぶ予想可能回避不可能な展開だったのですが、そこのへんは画面左側編で。吹版でガラフが3人を救出してからビッグブリッジに向かうまでの「暁の戦士」~「未知なる大地」への繋ぎが印象的でした。
羊とシアトリズム「ハーヴェスト」
吹・オケともにケルブの村の一幕を描いた「ハーヴェスト」。演奏も楽しいし、なによりも羊の演出が!かわいい!!全部食べられちゃったけど……
この曲は観客参加型のアンコール曲でもあり、パンフレット同梱のアンケートには2つのリズムパターンが掲載されていました。
さあ皆様、シアトリズムのお時間です。タッチトリガーは貴方の拍手!
ワレワレはやっているうちに「決戦」のドラムパターンになってしまいました……おかしいな?
別離の調べ
出会いがあれば、別れがある。思い返せば、光の戦士達が経験した別れはどれも壮絶なものでした。
ファリスの「離愁」
キャラクターを大きく立てた「離愁」の双璧。前段の「脱出!」で沈みゆくウォルスの塔から命がけでファリス達を助けたシルドラ、その最期の咆哮が耳に残ったままファリス役のソリストさんによるソロから曲が始まります。「シルドラー!しんじゃやだー!!」
いまはそっとしておいてやろう……「回想」
吹・オケともにバリアの塔破壊作戦に成功するも帰らぬ人となったゼザを待つガラフの場面で描かれ、コンマスガラフがソロを担当。オケではCCMの、吹では他奏者によるコーラスが寂寥感を更に深めていきます。
クルルの「離愁」「いつの日かきっと」
キャラクターを立てた「離愁」双璧のもうひとつ。勝利条件が「クルルを守れ!」だったガラフ最期の闘いが静かに幕を降ろし、彼のソロで「離愁」を奏でます。それをクルルのソロが受け継ぐ流れは、奏者で再現する本編イベント演奏の中でもひときわ強く思い起こさせるものでした。
そこから、クルルのソロをメインとする「いつの日かきっと」へ。吹での初見では上演前日がFF14演奏会のヒカオケだったこと、自らも幽霊ながらヒカセンなこと、FF14にも「いつの日かきっと」のアレンジがあることから、ただただ胸熱!!!!ってなってました。ビブラフォンの余韻も心地よかったなぁ。
オケ版ではクルルのメインにレナが加わり、吹版とは少し違ってこれまたいいアプローチでした。
かりそめの帰還~新しき世界へ
「タイクーン円舞曲ヘ長調」
第三世界の部の開幕は、レナ王女と”サリサ”王女の無事な帰還を祝してのタイクーン王宮舞踏会から始まります。”サリサ”達のそばへ行きたいのに、踊る人の波に(厚い奏者の層に)阻まれて動けないバッツ、胸をよぎる不安から城を出るクルル、ふたりのちょっとした衝突……さまざまな出来事が優雅なワルツにのせて繰り広げられていきます。
吹版ではボコファゴットさんが楽しそうに「ボコのテーマ」を演奏し、オケ版では「ん?」「ファンファーレ1」で城を抜け出したファリスに助けてもらう一幕があるのですが、直後にタイクーンの方角から空を押しつぶすような轟音が……
石版回収の旅路
「封印の書」音色ともパーカッション?ともSEともなんとも表現しがたい、それこそ長き封印から覚めた”なにか”めいた、あの不気味な”音”。オケ版で見事に”うたい”きった Chor Crystal Mana の男声のソリストさん、いいね!とかナイス!とかMIP推薦とか、いろいろ押させてください。あれは合唱とはまた違う生の声ならではの迫力でした。
また、オケでは4つの石版が眠るダンジョンに赴く様子も演奏されました。
ひとつは「古き土の眠り」にまどろむピラミッドに、ひとつは世界が融合したことでつながった孤島の神殿に「封印されしもの」へ、ひとつは「深い碧の果て」灼熱のマグマが流れる大海溝に、そしてひとつは打たれる水の裏側、イストリーの滝から広がる「ダンジョン」へ。こうしてリストアップしてみると、それぞれ全く違う曲があてられていたのが分かります。
そういや吹版の構成に電子ピアノが入っててなんだろう……?と思っていたら、バリアの塔に挑む場面での「深い碧の果て」でFF5原曲のあのポンポンとしたハープ音源の再現に使ってましたね。
ピアノマスターへの道「ピアノのおけいこ1~8」
光の戦士たちは旅路の途中、立ち寄った町の中にあるピアノを弾いていきます。トゥール、カーウェン、カルナック、ジャコール、クレセント、ルゴル、ムーア、そして次元の狭間にたゆたう蜃気楼の町。世界を巡りおけいこを重ねるたび、めきめきと上達していくけど「ピアノが、うまくなった」と気だるげにガッツポーズをとるMCバッツとのギャップが微笑ましいところ。
演奏としての白眉はやはり、ヘタクソな演奏をヘタに見せるよううまく弾く「ピアノのおけいこ1」~「ピアノのおけいこ3」でしょうか。
これより光の戦士たちは全ての決着をつけるため次元の狭間に臨みますが、それは画面左側編にて行を割きましょう。
「タイクーン王立楽団 戦勝記念演奏会」が吹奏・管弦ともに無事開かれた事実が、彼らが成しえたことの証左そのものですから。
the New Origin の向こう側まで
the New Origin:「エンドタイトル」の英題
「親愛なる友へ」
静寂の彼方にすべてを見届け、放心状態でシートに沈んでいたワレワレに懐かしい音色が染み渡ります。吹版ではピアノと木管が、オケ版ではまず原曲通りのアコースティックギターから入り、コンマスガラフのソロが加わり、管弦の調べがさらに温かな感情を膨らませていきます。
レポート記事を書くため、そして日々薄れゆく記憶の感触に抵抗するために、遠征帰還後ずーーーっとFF5サントラ(SFC・ピクリマ)をシャッフルでヘビロテしてきてるんですが、そんなヘビロテリストが通勤中に「親愛なる友へ」さしかかったとき、思わず涙腺が……
――ねぇ、なにか聞こえない?
レナの声に促され、長老の木の前に集っていた4人は静かに目を閉じた。おぼろげな明るさのみとなった視覚に代わり、聴覚が、嗅覚が、触覚が、よみがえった世界の息吹を聞いて、感じていく。
木々のざわめき、水のせせらぎ、火のゆらめき、大地のささやき……
四大の恵みがもたらす心地よい自然の流れに身を任せていた4人だったが、突然、ファリスが深緑の目を大きく見開いて辺りを見回しだした。
――姉さん、どうしたの?
――……シルドラの声が、聞こえたような……
――きっと、ファリスのそばにいたいんだよ
――そっか、シルドラも、ひとりぼっちじゃないんだないきましょう!――そういって4人が新たな旅に出た次元の膜を薄皮一枚隔てた裏側で、幻光の海竜が赤髪のミコッテ族のもとに近づき顔を寄せた。
タイクーン吹異聞 Missing Scene Quest 『マメット・ミステルのエクストラクエスト』
その背に眠れる冒険者と、小さな同行者たちを乗せて。
「エンドタイトル」
「ファイナルファンタジー」でしっとりしたところに再び飛竜の声が響き、大団円へ。
大勝利原曲テンポ完全再現。
まことにありがとうございます。
吹版のメモに「Euphパートよき」って書いてあるのに詳しく思い出せないのが悔しい……たぶん、原曲で3:33あたりから始まるホルンのメロディと金管のグリッサンドが掛け合うあたりのことだと思うけど……
この曲の極めつけはメインテーマフレーズ×4のキャラクターアビリティリスト!
光の戦士たるソリストたちが、原作のエンディングさながらにバトルアクションとポーズを決めていきます。吹ファリスは……シルドラかな?とかレナは何の魔法だろう?とかバッツはこれ二刀流だなーとか、そのポーズひとつひとつがプレイヤーとしての思い出と共鳴します。
カーテンが上がる前と降りたあと
プレコンとか終演後のアレそれとか、拾いきれなかったのをざっくりと。
「モーグリのテーマ」のメインメロディが吹オケともにスティールパンで、終止にっこにこでした。いい音だよね!
プレコンや幕間の楽団編成って、やりたいことがあふれにあふれて大体好き放題やってる説あります?いろんな大きさのフルート9重奏とか、高音演奏を思わず応援したくなる「カエルのテーマ」「魔王決戦」を含めたクロノ・トリガーメドレーとか、低音金管編成でやる「スピナッチ・ラグ」や「トロイア国」とか、リコーダーアンサンブルとか、挙げ句の果てはホール常設のアレまで。
あとはオケ終演後のプレゼントタイムでオルガニストの方がチョコボもらった時のかわかわリアクション、上演中こと細かに「オルガンスタンバイしてる……」って見てたので、客席のこちらまで嬉しくなりました。なんで都度みてたかっていうと、大体プレコンのせいですが……
画面右側から画面左側へ
FF5のバトル画面は、バックアタックを除き画面右側にパーティキャラが、左側に対峙する敵がいるもの。これより時空は歪み、時をさかのぼります。
……ロンカ遺跡が高空に浮上し、地に沈んだ”あの時”まで!
「異聞」はその場でそれっぽい文章を作って”その一部分”という体にして引用タグでくくってきたけど、ここにきて引用に収まらなくなってきたんで最後に垂れ流すスタイル。
1700字程度、トンチキにお付き合いください。
タイクーンオケ異聞 Missing Scene Quest 『the Exdeath’s Echo I|死を超える力』
土のクリスタルを失い、地に落ちたロンカ遺跡。
中のがれきの一部がもぞもぞと動きだすと、しばしあって人影が起き上がった。ピンとたった長い兎の耳――「タイクーン王立管弦楽団」の記録に触れた――冒険者だ。彼女は土ぼこりを払うと辺りを見回す。同行していたはずの賢人たちは見あたらず、目印にと持たされたエーテリアル・ペンデュラムも反応がない。
遺跡の中枢を担うクリスタルルームだった空間はあれだけの墜落を経てなお崩壊を免れたが、それでも方々で崩落が起きており穴の開いた天井から幾筋も光が差し込んでいる。衝撃で傾いたクリスタルの台座と輝きを失った砕片、いまだ立ちこめる土煙だけがここで何があったのかを物語るのみだ。
(光の戦士たちが、この遺跡で最初に落ちて離ればなれになった時みたいだ――)
天を仰ぎ、はぐれちゃったか……と独りごちる。
不意に、風が彼女の背中を押すように吹き抜けた。
クリスタルを失って弱まり止まったはずの風――それが触れた髪や耳、装束の指す行方を視線で追う。その先に、何かが光を反射してひらめくのを捉えた。剣だ。剣がひとりでに虚空を舞い、土煙を切って踊る。やがて傾いだクリスタルの台座にゆっくり収まったそれは彼女の接触を待つかのように佇んでいた。
古枝のようなシルエットに柄頭の黒い房、赤く長い柄、金色の刀身。暗黒騎士の振るう大剣を思わせるサイズの一振りは、娯楽小説の有名な挿し絵にも描かれ、この遺跡がまだ高空にあった頃まみえた暗黒魔道士の得物そのものだ。本来の持ち主は既にこの世界を離れているはず。では、なぜここに?
疑問よりも好奇心が、なにより昔から不思議と抱いていた憧憬が勝り、彼女は台座へと歩を進め剣の柄に指を絡める。指先に小さく鋭いものが刺さった――例えば植物の”とげ”のような――甘い痛みとともに意識の輪郭が溶けていき、視界がおぼろげになってくる。代わりに内側から湧き上がり聞こえてくる何かに惹かれ、渾然となった意識は境界を超え彼方へと引き込まれていった。
冒険者の持つ「超える力」がもたらした幻視――そこには明るさも暗がりもなく、色彩も定まらず空間としての把握もままならない視界に、ただただ耳を塞ぎたくなるような耐えがたい沈黙があった。
なにもない、という点では”無”であろう。しかし、この世界で本来謳われるべき”無”ではない。
内なる響きに促され渾然とした感情にベクトルを与えるかのように冒険者は左手を前にかざし、右手は軽く弓を引き絞るような型をとった。両手の間には矢をつがえる形に暗黒魔道士の大剣が刀身を添え、かざした左手の先から魔法陣が展開されていく。張り詰めた魔力の緊張が魔法陣から解き放たれた、そのとき。
沈黙の空間に亀裂が入り、律動を決める鼓動が、旋律の根底に根付く低音が、管弦風琴合唱……多彩を極めた和声が押し寄せ、空間を砕き塗り替えてゆく。常夜の星空、結晶の浮島、浮島を握りつぶすかのほどに根がうごめき天を衝く樹勢、星々を覆い隠していく樹冠――
おそらく、振り向けば記録されている最後の対峙が見られるであろう光景に、高揚と少しの安堵を覚え……――探したわよ。
聞き覚えのある女性の声で、冒険者の意識は遺跡に引き戻された。
「急にエーテリアル・ペンデュラムの反応が現れたと思ったら、こんなところにいたのね。素敵な”お土産”付きで」
あ、ヤ・シュトラ……と声の主に応じるが、まだ意識が戻り切れていない彼女はぼんやりとした声と表情を向ける。「……”視た”のですね」
あやすような、意識を身体に鎮めるような声をかけたのはウリエンジェだ。彼の問いに頷いて肯定を示す。
「詳しくは追々聞くとして、こちらの光の戦士たちの足取りについて行きますよ。いまは世界を渡るためのエネルギーを集めているとのことです」では参りましょう。
その一言と転移魔法で空間がひずむ独特の音を残して、3人と一振りは地に落ちた遺跡から姿を消した。記録された管弦の調べが「超える力」を通じて託したのは、クリスタルには宿せない、この世界に刻まれたもう一つの力。
邪念の大樹たる覇王の力――「暗黒魔道士」。