タイクーン王立吹奏楽団・管弦楽団感想戦:紀行録編

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ヒカセンにしてエクスデス信徒がタイクーン王立楽団の「戦勝記念演奏会」に闖入して無事情緒が「静寂の彼方へ!」した話。

2023年12月24日に立川市たましんRISURUホールで開催されたFF5楽曲の吹奏楽演奏会「タイクーン王立吹奏楽団」および2024年5月6日に横浜市みなとみらいホール大ホールで開催されたFF5楽曲のオーケストラ演奏会「タイクーン王立管弦楽団」感想戦、主に両演奏会の概要と大雑把な雑感をつづる「紀行録編」です。

Tycoon-orch
予定している公演ではファイナルファンタジーVの楽曲を演奏いたしますが、非公式のアマチュアオーケストラおよび、吹奏楽団体となります。※(株)スクウェア・エニックス(旧スクウェア)様、植松伸夫様とは関係ございません。

光の戦士の旅路を辿る「画面右側編」ぶっちゃけワレワレの遠征動機「画面左側編」と続き、これらの本文中にはなぜかFF14と混ぜてしまったトンチキ感想戦「タイクーン王立楽団異聞」の欠片が差し込まれています。

吹奏楽団の方は去年末にFF14ヒカセン吟遊詩人たちの演奏会「光のオーケストラ」とハシゴしてたんですが、感想が記事にまとまらないまま雑事に埋もれてしまいまして、これを機に管弦楽団と合同でレポートを書くことにしました。いちリスナーロールであるワレワレの手元にはパンフレットと殴り書きの手帳でつなぎ止めた記憶が残るのみなので、情緒の鮮度に差がある点をご了承ください。

異邦の詩人
「しかし、それは君自身が体験した”幻”に過ぎないことは心得ておいた方がいい。聞くだに相当に膨大な記録だ、君が触れられたものが全てではないし、同じ出来事を描いた記録であっても触れた者が変われば感じることも共鳴するところも変わる」

タイクーンオケ異聞 Missing Scene Quest 『狭間の旅路』

概要とひとくち感想

演奏会概要

20231224タイクーン王立吹奏楽団演奏会パンフレット

タイクーン王立吹奏楽団 演奏会

  • 2023年12月24日 開催
  • 会場:たましんRISURUホール
  • ファイナルファンタジー5 全67曲を光の戦士たちの旅路に沿って余すところなく吹奏楽で演奏しつくす演奏会

タイクーン王立管弦楽団 演奏会

  • 2024年5月6日 開催
  • 会場:みなとみらいホール(大ホール)
  • ファイナルファンタジー5 全67曲をオーケストラ+パイプオルガン+コーラス Chor Crystal Mana の一大アライアンスで光の戦士たちとともにその旅路をたどる演奏会
  • 当日は演奏のライブ配信も行われた
20240506タイクーン王立管弦楽団演奏会パンフレット

各パンフレットの表紙にあるロゴがうっすら反射してるの、FF5ロゴのリスペクトですね。

ひとくち感想

吹奏楽団・管弦楽団いずれも、会場をタイクーン城に塗り替える創意を凝らしたキャスティングに絶妙な編曲と構成、そして全力の演奏でFF5世界と光の戦士の旅路を追体験できた、FF5ファンとして最高峰の演奏会体験でした。

その過程で「対峙すべき暗黒」も存分に表現されてたため、涙腺は作動しなかったけれども情緒は無事蒸発。
吹の方では初見の音圧に吹き飛ばされ、オケでは思わぬアンブッシュでプレコンから蒸発したうえ、予想可能も回避不可能の物量がお出しされました。

独断 de MIP [Most Impressive Phase]

今回の演奏会で個人的な MIP ……Most Impressive Phase(いちばん印象的だったフェーズ・楽章)を1つずつ挙げるなら、こうだ!

タイクーン吹:完全初見で直撃した「覇王エクスデス」

演奏当時に受けた衝撃のあまり、ひとり秋葉原のサイゼリヤで微妙にFF14と混ぜたトンチキ感想戦がまろびでるに至ったのでした。ごめんねグ・ラハ……ひとりでは受けきれなかったの。

空が引き裂かれるような木管の叫び、それに呼応して地を揺るがし大気を呑み込む重低木管と金管の哄笑。

風が止まり始まった探求の旅路、最後の希望が潰えてまみえたのは、グ・ラハ・ティアの足下にいる青い甲冑の魔法人形と似た姿形ながら似て非なる邪悪な力に満ち満ちた暗黒魔道士の威容であった――

タイクーン吹異聞

タイクーンオケ:本編上演中で”一番最後に”聴いた「暁の戦士」

ここに至るまでの展開も胸熱でしたが「FF5全曲をストーリーの流れに沿って編曲・演奏する」のがコンセプトのタイクーンオケにおいて、おそらく唯一「FF5本編にない楽曲展開」を入れた会心のシーン!

ウリエンジェは観た。
虚ろなるしじまの星天に黄金色の星が奔るのを。

それに付き従っていた若草色の星がいち早く風となって、冴え渡る氷色の星と原初の猛りを宿すような赤熱の星がそれに続いて、虚空に投げ出された4つの心に光を熾し奮い立たせていくのを。

そして……黄金色の星がかつて継承させた”希望”を、いま一度光の戦士たちに灯すところを。

――暁の四戦士 参上じゃ!

タイクーンオケ異聞

詳しくは別の記事で行を割きますが……両方とも画面左側編だな?

そこはタイクーン城のホールだった

「タイクーン王宮にて催される”戦勝記念演奏会”にタイクーン王女姉妹をはじめとした光の戦士達が自ら奏者として演奏に臨む」

という設定で開かれた両楽団の演奏会は、会場前の案内影ナレから世界観全開でした。この日ばかりは彼らに世界を救う道を託した暁の四戦士やタイクーン先王の英霊も来賓として客席に……客席視界確保のため兜や角は外してください(ケルガーの耳は免除)っていわれてましたが。また、いん石降下の経験からか万が一の災害対応のアナウンスもきっちりFF5仕様で流されました。

それはそうと、タイクーン国民や他国からの来賓じゃなさそうな者も混じってるのは、いいんでしょうかね。

たとえばそこの……平べったいマメット・エクスデス着けているようなヤツとか。

「異聞」としてFF14の自キャラ冒険者+αが「演奏会の記録にアクセスしている」という体のトンチキ感想戦を書いているワケがこの辺にあります。
「戦勝記念」なんだし、演奏会世界観のタイムラインに残党っぽい思想のヤツがいるのはばかられるでしょうw

光の戦士キャスティングが最の高

プレコンサートが終わり、開演時間を迎えると奏者が舞台入りします。そこで目を見張った客席の方も少なくなかったのではないでしょうか。

――舞台に、光の戦士たちがいる。

バッツ:指揮者 吹・すっぴん渋谷バッツ|オケ・天野バッツ
レナ:吹・フルート|オケ・クラリネット
ファリス:吹・フルート&ピッコロ|オケ・トランペット&フリューゲルホルン
ガラフ:コンサートマスター 吹・クラリネット2種、すっぴん渋谷ガラフ|オケ・ヴァイオリン、天野ガラフ
クルル:吹・サックス(ソプラノだった気がする)|オケ・フルート
ボコ:ファゴット・黒チョコボ、ケルブの村の羊(?)

上演中、光の戦士たちがソロしてる~~~~!!かけあってる~~~~~!!!って情緒散らかしてたんですが、楽曲中にソロ(独奏・独唱)を担当する奏者のこと「ソリスト」っていうんですね。

指揮者バッツと相棒のボコファゴット

指揮者バッツ、楽章ごとのMCや寸劇カットシーン、「ピアノがうまくなった!」エモートでのけだるげな雰囲気と、指揮中のビシバシとした姿の落差が「ぶっきらぼうだけど困っている人は放っておけない正義感を持ち、しかも腕が立つ自由奔放な旅人」というバッツ像にぴったり。これで企画運営と編曲・オーケストレーションとデザインも兼務してたそうですから……すっぴんマスターかな?!?!
個人的に印象に残ったのは吹版「虚空への前奏曲」でおもむろに電動ドリルを持ち出したところですかね。

ボコファゴットさん、吹でもオケでもFF5という作品世界が持つ底抜けの「明るさ」を全身で体現した演奏と振る舞いが終止かわいすぎました。最高!
企画運営と編曲も担当……ってことはタイクーン王立楽団、吹もオケもバッツとボコの旅路があってこそだったんですね。

コンサートマスター・ガラフ

吹・オケ通してコンサートマスター(コンマス)にガラフをキャスティングするの、ニクいですよね。FF5本編の主人公はバッツですが、その旅路を導いていたのはガラフ(と、同じ暁の四戦士だったドルガン)といえるでしょう。各部開幕前にコンマスガラフの先導で行うチューニング、さながらビッグブリッジを挟んでエクスデス城と対峙するバル城の軍勢のようでありました。

吹コンマスのすっぴん渋谷ガラフにはクラリネットの音色のような温かさと親しみやすさをおぼえ、そしてオケのコンマス天野ガラフは他団員の黒を基調とした衣装も相まって「暁の四戦士」感が強まり、ビジュアル至高 of 至高。正直、基礎知識編のキャラ紹介ページとか完全攻略編の表紙から出てきたかと思った……

光のソリストレディース(クルル・レナ・ファリス)

そんなコンマスガラフとの掛け合いが多かったクルル。吹のサックスさんもオケのフルートさんも元気いっぱいおじいちゃんに手を振ったり、タイクーン城の舞踏会の場面にバッツと小突きあいをしたり。最愛の祖父を失った悲壮から遺志と力を受け継ぐ「離愁」「いつの日かきっと」のソロは胸に迫りました。

吹でのタイクーン姉妹はフルートとピッコロ、と同じ系統の楽器なのがイイ!第三世界の部が幕を開けるときは姉妹揃って舞台入りし「解釈一致!!!!!!」となりました。レナ衣装の裾がフリルで白くヒラヒラしてるのも素敵。

オケおかしら、トゥールの町で「おれも!」(ジャカジャカ チーン)「じゃあな!」したり「シルドラ!あいさつしな!」のピンと伸ばした左手、デスバレーの穴の上から「もうこんなこと、しないか?」とロープをちらつかせるシーン、16*16ピクセルなフィールドキャラドットのファリスそのものでした。

これは会場の特性で演奏会とは直接関係ないんですが、みなとみらいホールの「開演5分前」「休憩終了5分前」の時報が銅鑼だったので、脳内でおかしらファリスが「野郎ども!出発だ!いかりを上げろーーー!」ってしてました。

「オリジナルサウンドヴァージョン」と「オリジナルサウンドトラック」

タイクーン王立楽団の演奏会は2020年11月に開催予定だったのが延期となり雌伏を余儀なくされましたが、その間、FF5界隈では大きな動きがありました。FF5ピクセルリマスター、およびそのオリジナルサウンドトラックの発売です。

ピクリマ版サントラ、生音収録だし曲によっては追加パートがあるし美味しい。でも、あの曲のあの部分はSFC版の「原曲」がいい…FF5ファンが少なからず抱えているであろう(ある意味贅沢な)モヤモヤを「オリジナルサウンドヴァージョン(SFCFF5初期サントラの表記)」と「オリジナルサウンドトラック」それぞれのいいところ、懐かしいところ、かっこいいところ、最高なところを選りすぐり昇華し、選曲と編曲で光の戦士たちの旅路により合わせ紡いでいったのは最高の一言でした。

物理・力業なんでもあり!SE/音色再現

オケ・吹ともに「これをこうやるか!」とうなったのが、FF5独特のSE、音色再現への工夫。

物語の始まりと大団円を告げる飛竜の声、世界に幾度か落ちてくるいん石、ショップのレジ決済音、ファリスの無二の相棒シルドラの咆哮、砕け散るクリスタル、その欠片に宿す4つの心の輝き、「古代図書館」「ムジカ・マキーナ」「ん?」「封印の書」「虚空への前奏曲」不可思議な空気を作り出すリズムのパーカッションや音色たち、無情にも降り注ぐメテオ、大地をえぐり呑み込む「無」、次元の狭間への強行突入、最後の闘いの決着――

ときには再現のために用意した「楽器」たちが視覚的なインパクトを持つこともありました。

奏者自ら足踏みで舞台にとどろかせるいん石の轟音、指揮者の手でうなる電動ドリル、マレットの反対側の棒で木琴をカチカチなぞっていく奏者、なんかくるくる振り回されてカタカタ鳴ってる歯車に板がついたようなもの(ラチェット)、物理的に左右で鳴らすドラムやシンバル、オーケストラの編成には本来含まれないユーフォニアム(飛竜の鳴き声)、コントラバスほどの高さがある謎の銀の筒……(「無」のSEのため用意されたものだとか)

有志による特定作品のゲーム音楽演奏会は権利の関係でアーカイブを残せる例が少なく、客席ロールではどうしても一期一会になり演奏の記憶に精彩を欠いていってしまうなか、いま振り返ってもこれらの音たちは鮮明に両演奏会の想い出に楔を打ってくれています。

ワレワレも含めて思い出補正って強いんですけども、その解像度を強く上げてくれたオーケストレーションと主にパーカッションのみなさまに感謝です。

切れ味斬鉄剣!ショートバージョンにGJ!

FF5の全楽曲はジングル含め67曲。本編に沿ったシーン再現を編曲と構成で……となると場面によって何度も登場する曲が出てきます。穏やかなところだと「FF5メインテーマ」「レナのテーマ」「プレリュード」とか、穏やかじゃないところでは「危機一髪!」「脱出!」とか。

あとは吹の時に指揮者バッツも認めた「エクスデス出過ぎ問題」!本編の10回から削ったってどうしても数回は顔を出しちゃう!

これに対し、いくつかの曲はショートバージョンやイントロだけ演奏して「ここのシーンやりましたよ!」とメインの楽曲へ橋渡しをするの、スゴイ解を出してきたな……ってなりました。

まさか「この命 燃え尽きても! わしは きさまを 倒す!」が2曲のイントロで表現されるとは。

そんな文脈の最適化が光るショート版の好例としてもう一つ挙げたいのは、第二世界での「決戦」を制したあとの「4つの心」そして「王家の宮殿」冒頭の高らかなファンファーレ。「タイクーン城に戻ってきたんだ!」という感慨が一層深くなります(元の世界だとは言ってない)。

また「ファンファーレ1」はクリスタルの欠片に宿る勇者の心(ジョブ)を借りうけたり、ファリスに深穴から助けてもらったり、石版をゲットしたり封印武器の封印を解いたりして、こちらも短いながら出番がたくさんある曲。
吹・オケともに、何度出る機会があってもビシッと決まった演奏が気持ちイイ!ジングルでした。地味に金管さんが大変そうな入りよね……

ショートバージョンの真骨頂はオケのアンコール!

『隕石落ちて!ゴブリン追っ払ってレナ助けて!海賊船乗ってのクリスタルがバッキバキの!里帰りして異世界片道切符キメたらエクスデス城捕まりーの!ガラフが単身ぶっこみーの!うでわ案件から世界融合してなんやかんやデルタ4層決めてお手紙書いて飛竜と一緒にエンドタイトルよ』

タイクーンオケ異聞 もうひとつの漆黒決戦:楽団新生「親愛なる者たちへ[ディア・フレンズ]」

オープニングでいん石を落としつつ(SEあり)ビッグブリッヂや決戦、最後の闘いといった元々ハイテンポでハイテンションな曲をもう一度演奏し倒し、エンドタイトルは飛竜が鳴いたと思ったらアビリティリスト画面もすっ飛ばして THE END テロップを出す。FF5曲、こんなにバッサバサと切って繋げられるもんなんだ……そして演りきれるもんなんだ……。

みなとみらいホール公式サイトには直近1ヶ月に催された演奏会のアンコールリストがあると知り、確認してきてその曲目の物量にひとしきり笑ってきました。メドレーとはいえ、出典総勢23曲はアンコールでやる曲数じゃないんよ……

AND YOU のひとりとして

両演奏会のパンフレットにあるスタッフロール(奏者・スタッフメンバーリスト)の最後には

AND YOU

とあります。FF5スタッフロールのリスペクトですね。そんな AND YOU のひとりとして、聴いて・感じて・情緒溶かして……したタイクーン城での楽祭のひとときをお届けできればと思います。