宿命の戦いを終えたディナテスに投げかけられた声。
「じゃあ、ひとまず蜘蛛いこっか」
「え」
「蜘蛛なら、ごり押しでもなんとかなるしね」
「……なんか、耐性装備いる?」
「しばりガードの盾があるといいね」
それは新たな旅の扉を開くものだった。
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ディナテスの強ボスデビューは、レオナ教授1・りっか・イフェル・ごつ……といった経験者による座学からはじまる。
とくに僧侶としての経験が深いレオナからの手解きは、微に入り細を穿つものだった。
「開幕に(聖なる)祈りしてこれを維持。壁(役)の後ろにつくこと。回復はホイミとベホマラーを使い分けて、余裕があったら(マホトラの)衣入れて。(死グモの)トゲ来たら(ベホ)マラーね」
「天使(の守り)は?」
「ボケとか一喝が入ったとき2に使うといいよ」
これまでとは次元の違う戦術に、彼女の双眸には旅の扉ができていた。
そのうち、耳から蒸気が出るやもしれぬ。
白の聖地に繋がるかつての王都の庭園にある泉は、今日も数知れぬ猛者で溢れている。
一行もまた、その ひとしずくとして溶け込んでいくのだ。
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ささやき−祈り−詠唱……ホイミ!
パサー−もらって−詠唱…………ベホマラー!
祈りが−切れそ……ターゲーらーれーたー!
走る、慌てる、唱える、焦る。
癒やし手が全力で迷走しているが、そのほかは歴戦の廃人どもだ。
次々と戦果を上げ続け、怪蟲アラグネ強、5戦5勝で討伐報酬獲得。
「姐さん最後の方なかなか良かったよ」
「そ、そう?」
無我夢中で戦っていたディナテスの目からは、未だ旅の扉が消えない。
しかしチームの身内であることを差し引いても、これは正当な評価だろう。
事実、戦いを重ねるごとに、彼女の動きから迷いが払拭されていくのがこちらからも見てとれた。
「じゃ、次いこっか」
「え」
「どこにしよーか……ザイガスかな?」
「あー、雑魚ガスさんかー混戦でもいけるしな」
舞台は白の聖地から、森林のエアポケットへと移される。
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穏やかな木漏れ日が差し込む、ミュルエルの森。
石畳の回廊を南東に進んだ突き当たりに、プクランド大陸伝説のイケリポ英雄フォステイルを冠する広場がある。
「ザイガスは正直雑魚いからなー、姐さん にちりん 持ってるし棍持って殴ってていいよー」
「でも上司の足ばらいとイオナズンは気をつけて。兆候見えたら離れること」
「上司いるんだ……」
「じゃ、どんな風に立ち回ってるか、よ く 見 て て ね 」
と、スティックを構え癒やし手の手本を見せようとするレオナ教授だが…… そ れ は 無 理 だ。
彼女の戦闘時における視野は、未だ限定的だぞ。
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モスグリーンの悪魔2体と、一回り体格が大きく白い肌を貼り付けた悪魔長。
そこにツメと棍とが入り乱れる、文字通りの混戦だ。
重要な戦いでは癒やし手に徹し、前線にほとんどでたことのないディナテスの挙動は、先ほどとは異なる戸惑いを見せていた。
そこに、闇の凝縮体が日輪を飲み込んで迫る。
「ドルマゲストぉぉぉぉぉぉぉ……」
もとい、ドルマドンの下敷きになること2回。
悪魔ザイガス強+悪魔長ジウギス、2戦2勝で討伐報酬入手。
それで、レオナ教授の実地指導はどうだったのだ?
「……」
沈黙が雄弁に訴える。
「なんの成果も得られませんでしたッーー」と。
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「即死ガード100よし! 封印ガード100よし!」
額のサークレットと、涼しげなノンスリーブの拳法着にドレスアップされた水のはごろも とを指さし、声を出して確認する。
次に挑むは、魔法の迷宮に巣くう魔軍十二将の一角、バズズだ。
むしろ標的は討伐報酬で得られるソーサリーリング……とも言うが。
「ビーナスよし! ウェディナテスよし!」
続いて、胸元に秘めた蒼穹の雫と自らの海色の肌を指さし、属性攻撃への対策を確認。3
「えっと……壁役の後ろは絶対維持、優先順位は、ズッシ > スク > フバーハ ……前線が倒れたらザオラル、あとMP見てせいすい」
海色の指を折り、教わった手順を復唱する。
今回の役割は「バフ4係」、すなわち味方の攻撃補助を一手に担うものだ。(回復役はレオナ教授)
前衛が敵を押して後衛を守りつつ行動を封じる、いわゆる「相撲」の成否がカギを握るバズズ戦において、対象の重量を倍加するズッシードの維持は戦略の要である。
「(スクもズッシも詠唱時間長いよなぁ……)」
バズズコイン(1.4当時の相場は80,000G台)も買えぬなけなしの貯金から、呪文詠唱速度を補助する錬金つきの腕装備を見繕い、ディナテスは魔法のカギの誘いに応えた。
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「い、今起こったことを ありのまま話すぜ……イフェたんにズッシかけにいこうとしたら、家に戻ってた」
今起こったことを、ありのままに伝えよう。
お前がズッシードをかけに走ったところで、前線が かがやくいき とバギムーチョで轟沈(ついでに巻き添えで食らっていたぞ)、壁のなくなったところでレオナが沈み……
「……」
冒険の書には残されない、戦いの記録[システムログ]を読み上げてやる。
悪霊の神々、その一柱に挑む戦歴の幕開けは鮮やかな全滅劇であった。
「ムーチョ来たら横に逃げようね」
「はい……」
イフェルのヒレ耳が、しおらしくうなだれていた。
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「次コイン備えるの誰だっけ?」
「あれ?コイン誰ももってない?!」
紫魔神に一度打ち勝ち そのまま迷宮の輪廻を選択した一行は、入り口にある種族神像の前で立ち往生をしていた。
捧げるべき、バズズのコインがない。
「しゃーない、時間かかるけど迷宮クリアしていっぺんでるかー」
「ぶ、Vロンならあるけど……」
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「はい、ねーさんの分」
グレンの町外れに開かれた住宅村、先ほどのVロン戦で したたかに打ちつけた腰をさするディナテス5の前に、りっかが淡い桜色の手をさしのべる。
開いた手から、バズズのレリーフが施された銀貨がこぼれ落ちた。
「貸し、ね」
「もつろんですとも(さて、どうやって返したものか……)」
アストルティアを旅する冒険者のほとんどが、規模の差はあれ「なんとかボンビー」に取り憑かれている。
慢性的な装備資金不足から職人活動で10万単位でゴールドを溶かすものまで、チーム・ホームタウンドミナの面々も例外ではない。
世界にはびこるその深刻さは、冥王も魔瘴の脅威をも超えるものかもしれぬ。
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「慈悲に満ちた大地よ 繋ぎとめる手を寄せ 祝福の抱擁を…… ズッシード!」6
手早く術式をまとめ上げ、呪文を発動。
さらにもう一度同じ呪文を前線のもう一人にかけて、紫魔神の進路を阻む。
往年の「竜と探求」世界で見られる一列縦隊を維持しつつ、さらに強化呪文を重ねてゆく。
短時間に重ねた戦いが数値をとらぬ経験となり、着実に戦いを支える柱となっていた。
紫魔神バズズ、4戦3勝。……ソーサリーリングは、なし。ある意味では敗北ともいえる。
なお、りっか に借りたバズズコインは……
「おめでとうございます! 2等 悪霊の神々のコインが当たりました!」
その代金をつつがなく完済できたことを申し添えておこう。
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一晩で、強アラグネ×5、強ザイガス×2、バズズ×4。(あとVロン)
だれが そこまで がんばれ いうた。(全員です)
あと、ズッシードは唱えてみたかっただけだ!
にぇるにぇるさんのお株を奪う?怒濤の強ボス&迷宮コインボスデビューでした。
これでも強ボスの中では弱い方、というので依然がくぶるです。
何がありがたいって、ヘタレ僧侶でもつきあってくれるチムメンの皆さんですよ。
「強ボス行けるひとがひとりでも増えれば、パーティ構成の選択肢が広がる」という向きもありますが。
この日記のもととなったプレイ(7月10日)から1ヶ月経った今も、ソサリが出ませんorz
あと、バズズのコインもカードも出ませんorz 悪霊コインは2枚目が出たけどワレワレまだいけないよ……
チーム内ではソサリ出たの17匹め!という記録?があるんですが、さすがにそれは回避したい!
- 顔アクセサリ 教授のメガネ を装備している [↩]
- 両方とも1ターン休みの効果がある。一喝は武闘家の必殺技で、相手を強制的にひるませる [↩]
- ウェディには20%の冷気耐性ボーナスがある。人間以外の他種族も同様に、なんらかの属性耐性ボーナスを持っている。 [↩]
- スクルト/プロテスやピオリム/ヘイストのような、対象に有利なステータス異常・攻撃補助をバフという。逆にルカニやヘナトス、スロウといった対象に不利な攻撃補助はデバフと呼ぶ [↩]
- ジャンプでかわせると事前に情報を得ていながら、Vロンの特殊攻撃を全弾まともに受けた…… [↩]
- FFTレビテトの詠唱パロディ [↩]